創立65周年記念宮城県弓道連盟史(2500円)
本連盟には平成3年5月に発行した40年史があります。本書ではその続編として一部を引用し、特に平成以降の関係資料の収集編集を行っており、県内の弓道の歴史や歴代の大会結果などを掲載しています。
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弓聖阿波研三 著者 池沢幹彦(2500円税別)
本書は、弓聖とまで讃えられた弓道師範阿波研造の伝記である。
1.阿波研造の生涯
研造は、明治13年(1880)に宮城県石巻市横川に生まれ、昭和14年(1939)に亡くなった。初め石巻で、元・仙台藩士の木村時隆から雪荷派の弓術を学んだ。29歳の時、家業の麹業を廃して弓術の師範として身を立てる決意をし、仙台市に出て弓道場を開いた。困窮した生活の中で屡々上京し、正面打ち起しにより弓道の改革をした本多利実について学んだ。
研造は旧制第二高等学校の師範を務め、剛弓を引く弓術家として知られた。大正6年には京都の武徳大会で特選第一位となったが、その頃から松島瑞巌寺の松原盤龍禅師の下で禅の修行を始めて、大正12年頃に「弓禅一味」の境地に達した。昭和2年に、弓道による人間形成を旗印として掲げて、「大射道教」団を組織した。全国の門弟は一万四千人と言われ、我が国弓道界の指導者の一人となった。
その間、大正15年から昭和4年まで、東北帝大に哲学の講師として来日していたオイゲン・ヘリゲルに、弓を通して禅の指導を行った。ヘリゲルはドイツへの帰国後に『弓と禅』の書を著したので、禅と日本弓道の西欧への普及に多大の影響を及ぼした。
2.本書の内容
本書は二章から構成され、第一章「阿波研造の伝記」は上記のような生涯の記述であり、第二章「阿波研造の遺産」では、研造の門弟達の業績、ヘリゲルの西欧への影響、日本弓道の国際化などが扱われている。
本書には二篇の附録が付けられている。附録Ⅰ「阿波研造の遺文」は、研造の遺した多くの文章、講演録の中から重要な物が選ばれて、原文のまま収められている。また附録Ⅱ「仙台藩雪荷派」は、研造が木村時隆から学んだ雪荷派の、仙台藩での歴史である。
3.本書の特色
阿波研造の生涯については、既に、櫻井保之助による大部な二冊の評伝が出版されている。それに比しての本書の特色は、まず第一に、それらより短く読み切り易いところにある。また更に本質的に重要な特色は、櫻井保之助が、研造の遺文集冒頭に収められていて弓禅一味を内容とする「射道正法」の一文を、研造の残した最重要な文書として扱い、研造の生涯が、それに向かって収束して行ったかのように述べていることに対して、修正を加えていることである。本書では、「射道正法」の骨子は梅路見鸞による文章であり、研造の書いたものではないことを、様々な考察を基にして指摘している。このことは、研造の興した「大射道教」の本質を正しく理解する上で重要なことであろう。
また、櫻井保之助は、研造の禅の修行は独学であったとしているが、本書では、研造が松島瑞巌寺の松原盤龍禅師の下に参禅したことを述べている。この事も研造の禅仏教の理解の深さに関係しているので重要なことであろう。例えば、通訳を伴わずにヘリゲル一人だけを暗闇の道場に招いて、以心伝心で指導した有名な場面を、本書では禅寺で師匠の室に弟子が独参する事になぞらえている。そのような指導法は、師家について参禅の経験のない者は行わないことであろう。本書では更に、ヘリゲルの『弓と禅』ばかりでなく、研造の門弟達による努力により、日本の弓道が西欧に普及した経過も扱われている。
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弓道教室講話 著者 池沢幹彦(2700円税別)
1.本書の構成
本書の著者は、仙台市営の泉弓道場で毎週1回の弓道教室の講師を4年間勤めたことがあった。その時、実技ばかりでなく、月に1回、弓道を修業する上で役に立ちそうな話題を選んで講話を行った。それを纏めたのが本書であり、Ⅰ「弓道の歴史と名人伝」、Ⅱ「射法の教歌と弓の俳句」、Ⅲ「弓道の精神世界」という三編から構成されている。
2.本書の内容
先ずⅠ編では、我が国の弓道の歴史、中国の歴史上の弓の名人の伝記、および我が国の物語の登場する弓の名人の話が述べられている。歴史や名人伝ではあるが、技術や器具の詳細に亘るものではなく、大雑把に時代や人物の特色が述べてある。
続くⅡ編では、江戸時代に多数作られた教歌の中から、現代の射法にも通じる歌が選出され解説されており、更に補足的な説明として『弓道教本』等に書かれた現代の範士達による技法上の注意が引用してある。
弓に関する俳句は、向井去来と夏目漱石の弓の構造に関係した句が引用・解説されている。但しこの中で弓の強さの「分」による解説があるが、この箇所は不十分なものである。(この点について、著者自身による新たな詳しい解説記事『「弓の分」による弓力表示の解明』が、月刊「武道」誌の2016年4月号に掲載されている。)
最後のⅢ編では、先ず弓道に関する難しい用語や表現法のことが述べられている。弓道のような伝統的な武道での日本語の特徴的な表現法、つまり言語によって総てを論理的に表現するのではなく、言葉にまつわる経験や連想を頼りにして、言語の表現以上の含蓄を相手に悟らせる、あるいは直感的に感知させるというやり方が、例を挙げて解説してある。
次に、大正から昭和にかけて、多くの弓人達によって追求された、禅の方法の弓道への導入について述べてある。本書では、禅で云う「無心」ということが主として扱われており、その解説と実践の例として、弓道の行射の鍛錬を通してそれを体得させようとする阿波研造の厳しい指導と、理知を通してのみ物事を理解しようとする西洋哲学者オイゲンヘリゲルの苦闘の体験の様子が述べられている。
2.本書の特性
本書は弓道の技法に関する書物ではない。著者による「はしがき」に述べられているように、多岐に渡って広がる弓道の世界への初心者のための入門書として、あるいは、修練の合間の気晴らしの読み物としても役立つものであろう。
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オイゲン・ヘリゲル小伝-弓道による禅の追求
オイゲン・ヘリゲルが『弓と禅』を著してから既に七〇年ほど経った。この本は元のドイツ語から数カ国語に翻訳されて、今も世界中で読まれている。この本は日本の禅に関するものであるが、外国人による日本文化論の、既に古典的となった書物の一つと言えるであろう。
ところで、ヘリゲルの名は、『弓と禅』の著者としてのみ広く一般に知られている。大方の弓道人は、ヘリゲルが在日中の数年間、非常に熱心に弓道の修業をしたことは知っているが、大学の教師として、どのような態度で、何をしていたのかは知らないことであろう。
本書の第Ⅰ篇では、ヘリゲルが、ドイツのハイデルベルク大学で哲学教師としての天野貞祐や三木清などの日本人留学生を指導した様子や、禅仏教との出会いの経緯、その後の来日中の一九二〇年代に日本の哲学界と行った交流、さらに東北大学での授業や研究活動、弓の修行をした時代の弓道界の背景など、『弓と禅』の内容をより深く理解する上で参考になるような事柄について述べてある。
第Ⅱ篇では、ヘリゲルの残した『弓と禅』の著書が、欧米の人々に与えた初期の影響と、それが反響して日本に帰ってきた様子を、鎌倉の円覚寺境内に建てられた「閻魔堂」を例として述べてある。また、閻魔堂に奉納してあるヘリゲルの弓が、人並み外れて熱心なヘリゲルの修業を象徴するかのように、並外れた強弓であることが述べてある。
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